健太 1年目の命日

朝6時、時報のサイレンが山あいに届く。そのサイレンで悲しく思い出す健太( 17歳ぐらい )  猟犬として生まれたが銃声が苦手で使い物にならず可愛がられない ( 虐待? ) 犬がおる。その話が耳にはいり、人を介して1万円で譲ってもらったのは農園をはじめて間もない頃。


痩せ細り、叩かれたと思える傷があった。人は信用しないという強い意思の鋭い眼光。排便の中にうごめく寄生虫。厄介な犬を引き受けた。農園にはハナちゃんと太郎さんの先輩がいたが、初日に太郎さんに馬乗りになり噛みつき、太郎さんを従えた。ハナちゃんは大女将で、わたしのアイドルと判断して乱暴はなかった。


昨年の春ごろから股間に腫瘍ができ日増しに大きくなった。美祢市の獣医師に睾丸をとり、腫瘍の皮膚を切除して縫合する処置を頼んだ。あんたが手伝うなら今からやろう。初めて手術の手伝いをした。術後、麻酔が覚めていない血液がたくさんついた健太を抱いて車に載せて戻った。


しばらく順調に回復したが両足付け根のリンパが腫れだした。ついに歩行困難になり弱りはじめた。今夜を越すことは無理とわかり安楽死の処置に車に乗せようとすると、患部の痛みで狂暴になり危険を感じた。ひと晩、動物に殺されないようにハッピーを側につないだ。夜中、何度か健太を見に行った。息はしていた。


朝4時に行ったら硬直していた。その表情はおだやかではない。みなさんが来る前に、見せないためにユンボで穴を掘り埋めた。穴の底に寝かせたとき6時のサイレンがなった。


あの夜、獣医師に往診を頼み楽にさせてやれなかった悔いがサイレンでよみがえる。